Home 足跡図鑑 入門編  
 

アニマル・トラッキング入門

 日本の野山に生息する哺乳類の種類は、実はそう多くない。私の住んでいる近畿を例にとれば、北海道固有の「エゾ○○」といった動物やある島にだけ生息する天然記念物などにはお目にかかれないわけで、そうなるとせいぜい30種前後。紀伊山地に限定すれば、その種類はもっと少ないかもしれない。そうなれば、私の最近の癖で、スマトラ島の熱帯雨林の哺乳類をすべて把握する勇気はなくとも、紀伊山地に棲む哺乳類ぐらいはすべてごあいさつしてやろうという気になる。
 しかし、そうした哺乳類の大半は夜行性で、私たちホモサピエンスとは生活時間帯が逆なことが多い。したがって、ごく近隣に棲息していても、そうそうごあいさつができるわけではないが、雪が積もった朝なんかには、彼らはたくさんの足跡を残している。また、そのつもりで野山を歩けば、糞や食痕、けもの道やぬた場、獣毛、爪跡、こすり跡、巣など、結構彼らの生活臭に出くわすことができる。こうした動物の痕跡を「フィールド・サイン」といい、それらの証拠をたよりに犯人(?)を追跡することを「アニマル・トラッキング」という。
 動物学者の肩書きを持たない私は、私立探偵事務所を設立、たのまれもしない哺乳類の追跡に、喜びと生きがいを見出したのである。

1.ロコモーションの種類

@蹠行性(せきこうせい)
  足の裏全体で体重を支える。歩行を主とする動物に見られる。 
   【例】 ヒト、ニホンザル、ツキノワグマ、ヒグマ、ネズミ科、リス科、ウサギ科
      (※ ネズミやリス、ウサギの場合は、跳躍歩行を行うことが多い。)

 

A指行性(しこうせい)
  かかとをつけずにつま先立った状態で、肉球で体重を支える。音を立てずに接近したり、長距離を走る走行性に適している。
  【例】 イヌ科(イヌ、キツネ、タヌキ)、ネコ科(ネコ)、タチ科(イタチ、オコジョ、テン)

 

B蹄行性(ていこうせい)
  指先だけで体重を支え、その指先を保護するために爪の変形した蹄(ひづめ)が発達している。速く走ることに適している。
  【例】 偶蹄類(イノシシ、シカ、カモシカ)

 

2.足跡の配列

@歩行
  4足獣の歩行では、左後→左前→右後→右前の順で足が動き、足跡もその順で付くことになる。
  シカやイノシシ、キツネなど多くの場合は、左前足に左後足が、右前足に右後足が重なることが多い。(ただし、タヌキやクマは4足とも足跡を残す場合が多い。)
  【例】 シカ、イノシシ、カモシカ、キツネ、タヌキ

 
 


A速歩(トロット)
  対角線上の2肢(右前と左後、左前と右後)がほぼ同時に上がる。

   

B駆け足(ギャロップ)
  四足獣では最も早い走り方で、前足→後足→前足→後足と、2本ずつの足で地面をけって走る。4本足ともまったく地面ついていないこともある。
  ウサギやリスにもギャロップが見られる。また、イタチ科の動物も、雪上ではギャロップを行う。
  【例】 ウサギ科、リス科、ネズミ科、イタチ

 
 

 【参考文献】  ※ 動物ごとの足跡図鑑も同じ。
   『足跡図鑑』(子安和弘・著/日経サイエンス者)
   『野生動物に出会う本』(久保敬親・著/地球丸)
   『けものウォッチング』川道武男・美枝子/編・著