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                         くりんとのフィールドノート

           
   
 西日本四大性神事

 豊作を願う「おんだ祭(御田植祭)」は、奈良盆地を中心に県内50ヶ所以上に伝わる。一般的には、牛耕や松葉を使っての田植えなどを模した神事がよく知られており、「砂かけ祭り」として有名なお祭りも河合町広瀬神社の御田植祭である。
 こうした「おんだ祭り」の中には、子孫繁栄と稲の実りを重ね合わせて子づくりを表現する祭りもある。その場合、男女の性器を模したものや性交そのものが祭りの主役となっており、以下「天下の奇祭」「西日本4大性神事」などと呼ばれている。そして、そのうちの2つが奈良県内のお祭りである。

神事名 場所・神社名 実施日
西尾のてんてこ祭 愛知県西尾市熱池八幡社 1月3日
豊年祭 愛知県小牧市田縣神社 3月15日
江包・大西の御綱祭り 桜井市江包(えっつみ)・素盞鳴(すさのお)神社
桜井市大西・市杵島(いちきしま)神社
2月11日
おんだ祭 明日香村飛鳥坐神社 2月第1日曜日

【飛鳥坐神社おんだ祭】
 この日は雨だったものの、12時過ぎに境内に到着すると、すでに場所取りが始まっていた。飛鳥坐(あすかにいます)神社は鳥形山に鎮座し、拝殿には長い石段を上りさらに社務所の前の参道を進んでいく。お目当ての神事は神楽殿で行われ、広場を挟んで拝殿と対面する。場所取りは、拝殿を背にして神楽殿の前の広場や少し高台の拝殿前石段などで混雑する。
 14時前から神事が始まり、前半は田の耕作や種まき、田植えなど農耕行事である。後半に、天狗とオカメの面を付けた夫婦が登場し夫婦和合の儀式を実演する。あと、翁の面をつけた者が、滑稽な役回りを演じる。ちなみに、ナニの後、股間を懐紙で拭く動作がリアルだが、その紙は「ふくの紙」と呼ばれ、運良く手に入れた者はそちらの御利益があると聞く。
 神楽殿での神事が終わると、天狗と翁の面をかぶった者はササラ(先割れの竹筒)持って神社参道に繰り出す。ササラ振り回しながら参拝者のお尻を叩いて回るのだ。私の場合、彼らに出くわし無言のアイコンタクトで立ち会い成立、お尻を突き出してもう一つの神事が終わった。また、境内には「むすびの神石」など性器を模した石があちこちに奉納されており、性器型お守りも販売されている。

神楽殿での夫婦和合
 
サラサを振り回す天狗   前半の農耕行事
 
むすびの神石   参拝者の賑わい

【江包・大西の御綱祭り】
 大西では雌綱、江包では雄綱を作り、江包の素盞鳴神社の神前で、両大字から運び込んだ雌雄の綱が出会い、両者が合体して夫婦の契りを結ぶ神事が行われる。この結婚式を「入船式」とも言う。
 2月11日の当日は、江包・大西の双方で、「入船式」に向けての準備が同時進行で行われるため、その一部始終を知るには2年かかることになる。大西からの雌綱は、それを神輿のように担ぎ上げながら春日神社までの道のりを、大和川沿いを進んでいく。何度も休憩し、日本酒で勢いをつけながら、500kg以上の大俵を文字通り総動員で送り届けるのである。また、双方で行われる泥相撲は、泥がつくほどその年は豊作だと言われ、同じ村のよく知った者同士が戯れながら片っ端から泥の中へ落とし込めていく様は、まさに吉本新喜劇のノリで面白い。
 相撲のあと泥だらけになった大西の男たちの中に、羽織袴で正装した男性の姿が見られる。こちらは仲人という大役を担っており、午前11時頃素盞鳴神社に到着後は、春日神社にいる江包の村人たちにむけて七度半の「呼び使い」を行う。7回往復した後、最後は途中で引き返すという約束事が決まっており、それで七度半である。どうやら女性側が仲人を立て、夫の来訪を催促していることになる。
 12時頃には、江包の村人たちが600kgの雄綱を担ぎ上げ、素盞鳴神社で待ちわびる雌綱に向かって突進し始めるが、一息では行かない。ただ、こちらは大西の雌綱に比べて運ぶ距離が圧倒的に短い。いよいよ合体。どこにもお手本のないノウハウを熟知したと思われる男性が仕切り、雄綱を雌綱の輪に潜り込ませながら締め上げ完成となる。双方の参加者が手打ちをし、大西からは仲人と村役だけが残り、江包側と社殿で式を行う。

素盞鳴神社での合体
 
大西の雌綱   仲人役の呼び使い
 
泥相撲   江包の雄綱
 
 
   

 
   

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