Field Guide
                         くりんとのフィールドノート

           
   
 三輪山

景行天皇陵付近より三輪山をのぞむ

 「三諸山(みもろやま)」とも呼ばれる三輪山は、お椀を伏せたような秀麗な形状が特徴で、太古より原始信仰の対象であったと考えられる。したがって、三輪山そのものをご神体とする大神神社(おおみわじんじゃ)には、本殿はなく参道真正面にあるのは拝殿である。三輪山麓には、ヤマト王権初期の頃に造営された第10代崇神天皇陵や第12代景行天皇陵などの巨大古墳があり、卑弥呼を女王とする邪馬台国畿内説の本命となる地域でもある。三輪山は、こうした大王たちの崇拝もうけてきたいわゆる「神奈備」である。
 ゆるやかな三角錐の美しさは、富士山がそうであるように火山の活動によって形作られることが多い。奈良盆地の西端にある二上山や大和三山の畝傍山や耳成山がそうであるように、この三輪山も古い火山かなと思い地質学の文献を紐解いたが、「花崗岩と斑れい岩からなる地質」だという説明である。マグマが地表に噴出するか、あるいは地表付近で固結したものを火山岩と呼び、マグマが地下深部で固結したものを深成岩と呼んでいる。花崗岩も斑れい岩も深成岩であり、斑れい岩は花崗岩に比べて、より高温で固結し黒っぽくて固い。三輪山を登っていると、最初は大きな花崗岩が迎えてくれるが、やがて黒っぽい岩石が谷筋を中心に現れてくる。これらが斑れい岩である。よって、三輪山は火山ではなく、その美しい形状は、固い斑れい岩とやや柔らかい花崗岩が浸食時になすハーモニーの結果生まれたシルエットということになる。

 ご神体である三輪山は、永らく人の出入りを固く拒んできたと思われるが、現在は、「お参り」を目的とした一般の入山が許されている。ここでは登山と呼ばず「登拝」と明示し、標高467.1m(三角点466.9m)の山頂まで至ることができる。ただ、三輪山登拝には細かくルールが定められており、まず、狭井(さい)神社での受付が必要で、受付時間は9〜14時、登拝料300円となっている。登拝中は、「三輪山参拝証」の襷を首に掛け、水分補給以外の飲食、カメラでの撮影等は禁止されている。
 いただいた絵地図をたよりに、「三光(さんこう)の滝」「中津磐座(なかついわくら)」「高宮(こうのみや)神社」、そして「奥津磐座(おきついわくら)」と順に目指すが、私の場合、1時間10分を要した。この中の「磐座」というのは、三輪山の祭祀遺跡ではないかとされ、とりわけ頂上の奥津磐座には、人為的に集められたと思われる大きな岩石が無数に鎮座している。奥津磐座には大物主大神(おおものぬしのおおかみ)、中津磐座には大己貴神(おおなむちのかみ)が鎮まれていると伝わる。

 三輪山は大和青垣国定公園の域内でもある。長く入山を禁じられてきた社叢林ゆえ、この地域の気候にあった照葉樹が極相林として迎えてくれるはずである。実際、山道沿いには、大きく育ったサカキやヒサカキがすぐに目につく。主役は、巨樹となったコジイ(ツブラジイ)が一定間隔で見受けられ、目をこらせば、アカガシやウラジロガシ、アラカシなどのカシ類もそれなりに存在感がある。12月中旬は、サカキの濃紺色の果実がたくさん実っていて、大きな石の上には、テンかあるいはイタチのものと思われる紫色の糞が、サカキの実を消化したものと知ることができる。また、ヒヨドリの好物でもあるのか、山頂付近では無数のこれまた紫色の糞が点在していた。もう1ヶ月早ければ(11月中旬)、シイの実やどんぐりが足元にたわわに転がり落ち、そちらの動物の食痕が多かったことだろう。
 標高の低いところには、同級生と思われる針葉樹(スギ、ヒノキ)が一定間隔で高木と育っており、植栽されたものと推定できる。とりわけスギは「三輪の神杉」として神聖視されており、神事等に利用されるのかもしれない。また、ところどころに台風や枯死によってできたと思われるギャップが点在し、こうした場所には陽樹がいち早く占有している。カラスザンショウ、アカマツ、コシアブラ、ホオノキなどを見かけたが、なかでもカラスザンショウは、一部の山腹で純林を成すほどに大きく成長し、いただいた絵地図にも目印として「E烏さんしょう」という表記地点があった。陽樹の植物たちは急速に背を伸ばし枝を広げるが、やがてその下層でゆっくりと成長しているシイやカシ類などの極相林構成種がとって代わることになる。

 お参りを主眼としながらも、つい植生に興味を持ってしまうのが私の癖であるが、この山の一木一草に至るまで神宿るものとして尊ばれている。登拝で行き交う人々は、それぞれの信仰をもって奥津磐座や高宮神社を目指しているとうかがえるが、最近では、パワースポットとしても人気を呼んでいるそうだ。登拝口の狭井神社は、三輪の神様である荒魂を祀っており、力強いご神威から病気平癒の神様として信仰も篤い。また、狭井神社拝殿の後ろ手にある「薬井(くすりい)」という井戸の水も人気で、その「くすり水」を飲めば万病に効くと伝えられている。

大神神社拝殿と三輪山の森
 
狭井神社   登拝口
 
 
   

 
   

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