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やまとの花手帖

 
         
         

贅肉をそぎ落としたケイリュウタチツボスミレ 

スミレ科スミレ属

大塔町赤谷(2009.4.22.)

 渓流釣りが好きで、吉野の山川をくまなく歩いた。奈良ではアマゴのことをアメノウオと呼ぶ。アメノウオやイワナを追いかけている時は、岩の配置と水の流れしか目に入らない。いや、入らなかった。しかし、齢と共に集中力が衰えてきたのか、最近では1〜2時間川を上れば、あるいは1〜2匹良型の獲物が手に入ればさっさと納竿してしまう。むしろ、河岸の樹々や花、飛び交う野鳥が気になって仕方がないのだ。そんな時、神童子谷(天川村川迫川)で出会ったのが、水しぶきに揺れながら涼しげな青色をした花の群生。殺風景なアースカラーの岩場にあって、希少な高山植物に出会ったかのような感動を覚えた。あとで、タチツボスミレの仲間とわかる。
 この種は、常に攪乱を受ける河岸や岩場にあるため、わずかな土砂の堆積物や岩の隙間に根を下ろしている。少々の増水では流されないよう、花も葉も水の抵抗を受けにくい流線型に進化した。里に比べて厳しい自然環境に生きるスミレゆえ、無駄な贅肉を削ぎ落とした長距離ランナーのような美しさがある。

 4〜5月
 本