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やまとの花手帖

 
         
         

モチツツジの萼のねばねばに潜むカスミカメ 

ツツジ科ツツジ属

五條市・5万人の森(2013.518.)

腺毛にからまった虫たち

モチツツジカスミカメ(カスミカメムシ科)

モチツツジの分布域

 
 「美しいピンクのツツジが咲いているな」と近寄れば、花の萼や花柄の部分がネバネバしていて、そこに色んなゴミがくっついていて、さらにクモの巣もはっていて、そんな経験を何度も繰り返すうちに、「モチツツジ」には容易に近づかなくなった。このツツジは低山の林縁部に多いが、薄暗い林床であってもめげずに、ピンク色の花を咲かせている。奈良県内においてはありふれた風景だが、実はこのモチツツジ、紀伊半島を中心として岡山・香川・徳島以東から伊豆半島・山梨以西の太平洋側にのみ分布する日本固有種なのである。
 このツツジの特徴である粘着物だが、茎や葉に腺毛がたくさん生えていて、そこからネバネバした液を出している。開花時期、花の裏側を覗いてみると、そこには蜜を目当てにやってきた様々な昆虫が、ごきぶりホイホイのごとく捕殺されている。どうやら、ポリネーター(花粉媒介役の昆虫)以外の虫たちによる盗蜜や毛虫による花の食害を防ぐ役割があるようだ。実際、雌しべや雌しべに触れることなく蜜のありかまですり抜けていくようなアリなどの小昆虫が、粘毛の餌食の大半である。しかし、この粘着物に足を取られたミツバチやハムシも見たことがあり、彼女たちの場合「話が違う」と言いたくなるだろう。

 小昆虫にとって危険きわまりないこの粘着物を逆手にとらえ、生息域とする昆虫がいる。カスミカメムシ科のモチツツジカスミカメである。このカメムシはモチツツジの粘毛にからまれない秘策を持ち合わせているようで、天敵から身を守るための隠れ家として利用している。カメムシの仲間は植物のしるを吸うようだが、モチツツジカスミカメの場合、粘毛に捕まった昆虫に近づいて口吻を刺す行動も観察されている。
 このように、モチツツジに強く依存しているこの昆虫は、新種としての記載は1993年と意外に新しく、学名Orthotylus (Kiiortotylus) gotohi Yasunagaには、この種の研究者である安永智秀氏と後藤伸氏の名が刻まれている。

 4〜5月
 本・四