Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
 東大台周回コース
日出ヶ岳山頂から見た「正木峠」

 東大台を回遊する登山道は、石だたみや木製の歩道などが随所に整備され、登山初級者でも歩きやすい。バスやマイカーで初めて大台を訪れた人たちは、ほとんどこの東大台に足を向ける。実際、日出ヶ岳山頂や正木ヶ原、牛石ヶ原、大蛇ーにシオカラ谷と見所も多い。コースは、それぞれの体力や予定時間に合わせていくつかの選択肢があり、東大台を一通り満喫したいなら約5〜6時間の行程となる。

【上道〜日出ヶ岳】
 大台ヶ原ビジターセンターから日出ヶ岳に向かうルートは「上道」と呼ばれ、しばらくはトウヒとウラジロモミが混在する針葉樹の森となっている。かつて、この辺りではパルプ材の伐採と共に、スギやヒノキの植林も行われた時期があり、大きな木の切り株跡がところどころ残っている。また、高木や立ち枯れには3出葉のツタウルシがよく絡まっており、ウルシオールという成分を葉の表面から放出して、ウルシの仲間でもひときわかぶれやすい種なので注意したい。
 日出ヶ岳山頂が近づく標高1600m付近からは、ブナやオオイタヤメイゲツ、シナノキなどの落葉広葉樹があらわれる。駐車場から日出ヶ岳山頂まで約30〜40分、少々、息を切らしながら標高1694.9m三角点登頂となる。山頂付近は高木がほとんどなく、5月下旬にはツクシシャクナゲの開花が見られる。木製の展望台も設置され、天気がよければ熊野灘が眼下に見え、思わず感嘆の声がもれる。また、山頂やその下のテラスから、運がよければ富士山も見える。台風一過や秋・冬の雲一つない晴天で早朝という条件が、富士見遭遇の確率を高くするそうだ。

【正木峠〜正木ヶ原】
 正木峠を越え正木ヶ原に出るルートは木製の階段や歩道が設置されている。階段はシロヤシオ(ツツジ科)のトンネルに包まれ、6月上旬には満開を迎える。正木ヶ原は、かつて針葉樹で覆われ鬱蒼とした苔むす森及び湿原であった。しかし、今やミヤコザサの林床にトウヒやウラジロガシの立ち枯れだけが目立ち、まるで墓場の様相をなしている。この森林衰退現象に関しては、気象の影響、シカの食害、観光客の増加など様々な原因が考えられている。そのモニタリングとして、環境省によって設置された防鹿柵内では、トウヒなどの稚樹が育ってきている。また、周辺の立ち枯れや倒木には、アカゲラやオオアカゲラの姿がよく見られる。

   
ビジターセンター   日出ヶ岳山頂(標高1694.9m)   正木峠付近
   
正木ヶ原   牛石ヶ原   大蛇ー
   
不動返しー   蒸籠ー   苔道

【尾鷲辻〜牛石ヶ原】
 正木ヶ原から尾鷲辻に合流。この尾鷲辻には、ビジターセンターから直接通ずるルートとして、平坦で整備された「中道」という登山道がある。中道沿いには、トウヒやウラジロガシに加えコメツガも多く、大台の代表的な針葉樹がよく観察できる。尾鷲辻から牛石ヶ原に向かう歩道沿いには、ブナやミズナラ、イタヤカエデやオオイタヤメイゲツ、ハリギリなど広葉樹が多くが見られる。
 牛石ヶ原はミヤコザサの草原となっていて、視界の開けた美しさもあるが、過去に伐採されたあと遷移が進んでいないという現状も見えてくる。ここには古川嵩氏によって建立された神武天皇銅像がもう1つのシンボルである。その銅像の左手後方にある湿地(ぬた場)まで遊歩道によって導かれるが、眼前の美しい円錐形をしたハリモミの高木にも是非目を注がれたい。

【大蛇ー(だいじゃぐら)〜シオカラ谷】
 駐車場から日出ヶ岳山頂及び正木ヶ原経由で大蛇ーまで、計2時間半〜3時間かかる。大蛇ーまで伸びた尾根やその岩場には、コウヤマキ、ゴヨウマツ、ハリモミなどの針葉樹、ブナやミズナラなどの広葉樹、あとアケボノツツジやシロヤシオ、ツクシシャクナゲなどツツジ科の仲間が見られる。大蛇ーに向かって右手には、谷を挟んでセイローと呼ばれる岩壁が立ちはだかり、やまびこ(ヤッホー)スポットでもある。大蛇ーの先端に立つと、突然開けた視界の800m下には東ノ川が一筋の糸のように見え、向かいの逆峠の山肌がすごい迫力で迫ってくる。山岳信仰では、深山での修行の末蔵王権現に遭遇することをその目的の1つとするが、人影まばらな時間帯にここに立てば、そうした錯覚もおぼえゆるやかな時間が過ごされる。
 駐車場までは中道を戻るもよし、さらに東大台の醍醐味を味わいたければ、シオカラ谷を経由するのもよい。両ルートともさほど所要時間にかわりはないが、シオカラ谷はアップ・ダウンがきつい。この谷に下りる尾根筋にはツクシシャクナゲの群落が続き、開花期(5月中旬〜6月初旬)を選んでまた来たいなと思う。シオカラ谷には吊り橋がかかり、この下で涼をとるもよし、また秋ならナナカマドやカエデ類の紅葉が楽しめる。大台でも、コマドリの姿が少なくなってきたと言われているが、ここシオカラ谷付近ではその鳴き声をよく耳にすることができる。

【苔道】
 大台ケ原物産店(駐車場入口付近)左脇から「苔道」という名の遊歩道が伸びている。かつては、その名の通り林床には一面に苔が繁茂していたのだろうが、現在はすっかりミヤコザサにとって代わっている。かつての苔道を取り戻そうと、数十メートル入ったところに防鹿柵が設けられている。さらに進むと、大台ケ原開山の父古川嵩氏やその後を引き継いだ田垣内政一氏の墓がある。初夏には、ササユリが文字通り花を添えている。
 苔道の左右にはトウヒやウラジロモミ、ブナやミズナラなど大台ケ原の顔となっている樹木が見られるが、倒木や枯木も多くコケにとっては林床が明るすぎるように思われる。一方、ブナの枯木にはツキヨタケというきのこが寄生し、夏の夜に幻想的な灯りで楽しませてくれる。ウグイスやミソサザイなど野鳥のさえずりも林内に響き渡る。一周数十分ほどで、ビジターセンター脇の上道に戻ってくることができるので、時間に余裕のある方は散策してみてはどうだろう。

 
 
 
   

 
   

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