Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
 初夏シロヤシの三峰山
不動滝

 標高1235mの三峰山は、奈良県と三重県の県境にあり、室生赤目青山国定公園に指定されている。日本三百名山の一つ。毎年、霧氷まつりが開催され冬の山として人気があるが、初夏にはシロヤシオなどツツジ科の花を咲かせる花の山でもある。
 シロヤシオ(ツツジ科)は、枝の先に葉が5枚輪生状につくことから「五葉躑躅」という名もあり、太平洋側の山地のブナ帯に生育する。紀伊半島では6月前半に真綿色のツツジの花を咲かせるが、中にはうっすらとピンク色を帯びたものもある。シロヤシオは、敬宮愛子内親王殿下の「お印」となったことで広く知られるようになったが、ブナが自生するような標高の高いところに育ち人里ではなじみの薄い植物が、よくぞ「お印」に選ばれたと驚いた。ところが、那須御用邸に近い中大倉山一帯には、国内最大のシロヤシオの群落があり(標高1400m付近)、約6haに3万株が自生しているそうだ。なるほど、ご縁のある植物の1つだったのかもしれない。
 奈良県では、大台ヶ原や大峰山系など標高1500m以上のところに年月をかけて成長したシロヤシオの群落が見られ、標高1125m以下の金剛山地には自生しない。したがって、標高1200m台の三峰山や高見山は、紀伊半島ではシロヤシオが育つぎりぎりの環境ということだろうか。地球温暖化が植生に及ぼす昨今の影響を考えた時、台高山脈北部のシロヤシオ存続は危惧される。

【不動滝ルート】
 御杖村側から3つのルートがあるが、不動滝ルート上の「不動滝」は、是非、立ち寄られたい。不動川に沿った車道を進むと、トイレが設置され、そこに不動滝コースとの分岐がある。そこから登山道となるが、すぐに大きな天狗の面が掛けられた参籠所があり、その向こうに落差21mの不動滝が待ち構えている。さほど高くはないが、朱色の欄干の橋からその遠景が垣間見えた時点で、美しい容姿だと思った。滝に近づくにつれそれは確信へと変わる。どういう滝が美しくて、どういう滝がそうでないのか。それは流れ落ちる水がどんな造形を作るかということだろう。落差がありそれに見合う豊かな水量があれば、誰もがその迫力に神々しさを感じるだろうが、こちらの滝は、その水量に見合った落差と滝幅でハーモニーを奏でている。ただ、このページの写真は5月下旬のものなので、大雨後の増水や冬の渇水期には、また異なった表情になることだろう。滝口の右脇には、石仏の不動明王が祀られているが、行場の名残だろうか。
 不動滝を過ぎると谷に別れを告げ、急坂をひたすら上ることになる。やがて、1102mの水準点がある尾根筋に出るが、そこには山小屋が建っている。そこまでの急登が胸突き八丁である。ここまでくるとリョウブを中心とした落葉樹の明るい森となり、山小屋の横にはブナの大木も見られる。ただ、林床にはアセビやバイケイソウなどの有毒植物を除いて緑がなく、リョウブなどの樹木も目線より下に葉が全然付いていないので遠くまで見通せてしまう。いわゆる「ブラウジング・ライン」というもので、ここ三峰山もニホンジカの食害の影響が大きいようだ。5月下旬、三畝峠を越した山頂までの尾根筋に、ようやく開花しているシロヤシオを幾つか見つけたが、こんなものではないだろうと別の場所を期待する。

【登尾ルート】
 1〜2月には、みつえ青少年旅行村で「霧氷まつり」が行われている。このシーズンには、近鉄榛原駅から「霧氷バス(三峰山行きと高見山行きがある)」が運行されており、たくさんの登山客を運んでくる。そして、その多くは登尾ルートを選択する。不動ルートに比べて、登尾ルートの方が、幾分道幅も広く、整備も行き届いてるように思え、こちらが本道なのだろうか。途中、車道と交差するが、ここにトイレがある。また、何台かの駐車スペースもあり、ここまで車で上ってくる人たちもいるようだ。この上の展望小屋から不動ルートとの合流点にある避難小屋まで1時間余りの登り。不動ルート側は、この避難小屋手前に胸突き八丁の急登があり、登尾ルートの方が登りやすく感じられるのも、こちらを選択する理由かもしれない。

【三峰山頂と八丁平】
 二つのルートの合流点にある避難小屋から、登り道も少し楽になる。三畝峠から少し先に、「大日如来」「明治四十四年春」と刻まれた石碑が建っている。大日如来は真言密教の教主とされ、日本の山岳信仰とも結びついて、峰々でよく祀られている。また、不動滝にも祀られていた不動明王は、大日如来の化身とされていて、この山と修験道の関わりをにおわせる。 この尾根筋にはシロヤシオも多く、積雪期はシロヤシオに取り付いた霧氷のトンネルとなる。山頂少し手前に、木曽御岳ビューポイントがあり、天気のいい日には御岳が望める。また、三峰山頂からは北に、室生火山群が伸びており、息をのむ絶景である。
 山頂1235mは、河童の頭のお皿のようになっていて樹木がない。登頂の達成感から、そこでお弁当を広げたくなるが、山頂から南西方向200mのところに「八丁平」という草原がある。 昼食はここだ。南の三重県側に向かって切り立っていて障害物がなく、眺望が開けていて見事である。部分的に草原化しているのは風衝地ゆえか、あるいはシカによる食害がさらに抑制しているのかもしれない。森になっているところも、ヤマツツジやシロヤシオ、アセビなどツツジ科の中低木が目立つ。ここでたわわに花の付けたシロヤシオを探してみるが、5月下旬という時期が早かったのか、八丁平付近には少ないのか、ヤマツツジの赤い花の方が目立っていた。

シロヤシオに発達した霧氷(八丁平付近)
 
登尾ルート上の展望小屋   登尾ルートと不動ルートの合流点にある避難小屋
 
「明治四十四年春」銘の大日如来碑   シロヤシオ
 
晴れた日には木曽御岳ビューポイント   青空に浮かんだ木曽御岳
 
三峰山山頂   三峰山頂より室生火山群
 
八丁平   八丁平のヤマツツジ

【月出登山口〜新道峠〜ゆりわれコース】
 三峰山には、三重県側からのルートがあり、登山口へは、中央構造線の露頭が国の天然記念物に指定されている月出を経由する。日本屈指の活断層である中央構造線は、紀ノ川に平行してその北岸を走り、紀伊半島中央部を東西に横断している。中央構造線を境に、北側には西南日本内帯の領家帯の圧砕岩(マイロナイト)が、南側には西南日本外帯の三波川帯の黒色片岩が分布しているが、明らかに色の違う地層が約60度の角度で直接接している断層をここ月出では確認できる。
 1995年度から県の治山事業で、崖面の擁護壁を建設するなどして治山と保護の両立を図り、露頭が全面に見られるようになったようだ。しかし、当時の写真を見てみると、現在は、小規模な土砂崩れによって境界面が見えにくくなってきている。

 月出の中央構造線露頭が見られるのはワサビ谷で、その谷の上流に新道峠に至る月出登山口がある。新道峠は三重県と奈良県の県境で標高1060m。ゴールデンウィークの頃は、登山道沿いにヒトリシズカの開花が見られる。新道峠は開けておりここで小休止。ここからは尾根沿いに三峰山頂を目指す。八丁平からの南に向けての展望は、左右にも上下にも180度開けており、ハングライダーで飛び出したくなる。眼下の谷筋は櫛田川で、この日、高見峠から下ってきた国道166号線が延びている。八丁平から南に下っていく登山道は、「ゆりわれコース」と呼ぶようだ。先のワサビ谷登山口も、こちらのゆりわれコース登山口も、共に十分な駐車スペースがあるが、停まっている車の数から、短時間で三峰山頂を目指せるゆりわれコースが人気のようだ。

 
月出の中央構造線露頭    
 
新道峠   コバノミツバツツジ(5月上旬八丁平付近)
 
月出登山口   ゆりわれ登山口
 
 
   

 
   

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