Mountain Guide
                         くりんとの登山ガイド

           
   
 湯ノ又から明星ヶ岳 をめざす中尾・トッポリ尾回廊

中尾より神仙平を望む

 (旧)大塔村の高野辻は、ひと頃、私の遊び場であった。標高1000m以上の落葉広葉樹林帯まで車道が延びており、アニマル・トラッキングを楽しんだ。雪が積もった日には、何種類もの哺乳類の足跡が残っており、尾根沿いに延びた林道をどこまでも歩いた。そして、何よりもここから望む大峰山系の大パノラマは大塔村の宝物であった。近畿の屋根と呼ばれている標高1915mの八経ヶ岳、1890mの明星ヶ岳、そして、1895mの弥山と、それぞれの頂が肉眼でも見て取れる。そして、それ以上に、私が心惹かれたのは、舟ノ垰下の「神仙平」。この壮大なカール状地形は、氷河による浸食ではない。かつて、大規模な地滑り崩壊が起こった跡なのである。
 2011年の紀伊半島大水害で、篠原集落から舟ノ川上流沿いの林道は通行止めになったと聞いていたが、その後、復旧が進み、2020年現在、湯ノ又までは車両通行が可能であった。(この先は未確認。)この湯ノ又を登山口として、今回、明星ヶ岳までの中尾ルート登り、レンゲ道を経由してトップリ尾ルートを下山する計画を知人から示され、二つ返事で同意した。共に尾根ルートなので、地形図上では容易に読み取れても、ここはやはりGPSで足取りをしっかり確認しながらの登山である。
 湯ノ又というからには、かつて温泉が湧いていたのだろうか。昭和50年代にアメノウオ釣りで何度か訪れた記憶があるが、その時はここに林業従事者の飯場があった。今も「山火事注意・王子木材緑化」の帆布製看板が設置されているので、この企業の所有だったのかもしれない。湯ノ又から明星ヶ岳のルートは、「山と高原地図/大峰山脈」(昭文社)にも示されているものの、片道5時間余りでは人気がなさそうである。
 人工林に覆われた尾根伝いの急登が続く。放置されたままの太いワイヤーロープが、この地域の林業隆盛時代をうかがい知ることができる。標高1325m付近で尾根道が平坦になると、いつしかの伐採跡だろうか禿げ尾根となっており、視界が南に向かって全開である。かの神仙平も間近に見て取れ、すり鉢状の斜面は灌木で覆われ、崩落時の瓦礫がすり鉢の底に堆積している。そこから視線を右にスライドしていくと七面山の尾根に続いており、ここも登っておきたい山の一つである。このパノラマ風景に出会えただけで、この日の登山は成功である。足下付近にはブナの立ち枯れだろうか、おびただしい数のツキヨタケが育っている。暗闇になれば襞が蛍光色に光り、星空に続くパイロットランプのような幻想的な写真が撮れるだろうなとイメージするが、現実的なところ、はたして闇夜にここまで登る好奇心が勝るだろうか。
 その後の尾根道は、テープも明瞭でピッチも上がるが、地形図上の1383mを過ぎたあたりから尾根がねじれ、テープも不明瞭となる。尾根筋を辿ればいいとわかっていても、傾斜がきついと本能的にトラバースルートを探してしまう。探し出した時点で、目標地点からどんどん外れていくのが常で、GPSをたよりに修正する。1600m付近から、このルート一番の難所である。岩礁をよじ登りながら1700m付近に到達すると、細い尾根筋に倒木がジャングルジムのように行く手を塞いでおり、迂回路を自ら切り拓いていくことになった。この倒木地獄を抜けると、  最後の急登が一直線に伸び、奥駈道と合流する。

 
尾根筋に木材搬出用ワイヤーロープが放置されたまま   中尾1325m地点のブナ林
 
ブナの立ち枯れにツキヨタケ   1700m付近から行く手を阻む倒木
 
奥駈道との合流点   明星ヶ岳1894m

 奈良県の山標高ランキング順に列記すると、@八経ヶ岳1915m、A弥山1895m、B明星ヶ岳1894m、C仏生ヶ岳1805m、D釈迦ヶ岳1799.9m、E大普賢岳1780mとなる。これは、そのまま近畿のランキングにもなる。今回めざした明星ヶ岳は、近畿第3位の高山で、弥山には惜しくも1m差で第2位の名誉を譲った。弥山辻から、レンゲ道を経て森林の開けた細尾山で昼食。レンゲ道という名が残るからには、かつてオオヤマレンゲが道沿いに群生していたのだろうか。今は、弥山辻付近の防鹿柵の内側にしか残っていない。国土地理院の地形図には、明星ヶ岳西斜面にも「オオヤマレンゲ自生地」と明記されているが、中尾を登ってくる際、注意深く探してはみたものの出会えなかった。一方で、ニホンジカの糞や食痕がよく目に付いた。
 日裏山〜高崎横手出合間に、トッポリ尾に至る辻を注意深く探す。意識を持っている者にだけ読み取れる踏み跡とテープをたよりに、無事トッポリ尾根に侵入。オオイタヤメゲツやブナの2次林が続くのは、ここまで製紙会社が入ってきたのだろうか。1500〜1400m付近にさしかかると、風衝地なのか、禿げ尾根となって180度の視界が開けている。午前中に登ってきた中尾の稜線がよくわかり、ここトッポリ尾との間の谷間は、今まさに見頃の紅葉で埋め尽くされていた。
 やがて、人工林に突入し、急峻な尾根をひたすら下っていく。テープ痕がほどよく残されており、迷うことなく湯ノ又に到着できた。

トッポリ尾1500〜1400m付近
 
10月中旬の紅葉   登ってきた中尾の稜線、その向こうは七面山
 
トッポリ尾から湯ノ又に下る   湯ノ又

【所要時間】
  湯ノ又・・・(中尾)・・・奥駈道合流 (約5時間)
  奥駈道合流・・・細尾山・・・日裏山・・・トッポリ尾への分岐 (約1時間)
  トッポリ尾分岐・・・湯ノ又 (約2時間30分)  ※いずれも昼食・休憩含まず

 
 
   

 
   

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