Nature Guide
                         くりんとの自然観察ガイド

           
   
 古座川弧状岩脈

一枚岩

 約1500万年前、紀伊半島には巨大な火山が幾つもあった。それぞれの活動によって、大規模火砕流が発生し、地表が大きく陥没して巨大カルデラが出現した。南から「熊野カルデラ」「熊野北カルデラ」「大台カルデラ(コールドロン)」が想定されているが、なかでも「熊野カルデラ」は、南北径40km、東西径20kmの際だって大きいもので、現在の串本町から北は本宮町まで広がっていた。長い年月の間に浸食を受け、カルデラ火山の地形は明確に残っていないが、南縁の地下部分が地表に露出しており、それが「古座川弧状岩脈」である。
 古座川流域では、大爆発によって噴出した火砕流からできた「流紋岩質火砕岩(流紋岩質凝灰岩)」と、その後上昇してきたマグマからできた「熊野花崗斑岩」からなり、以下のような奇岩や巨岩を造り出している。露出域の岩相のおよそ8 割が凝灰岩、2 割が花崗斑岩からなる。

岩 石 名 所 特 質

古座川弧状岩脈

流紋岩質火砕岩
(流紋岩質凝灰岩)
虫喰岩 流紋岩質火砕岩が風化し、虫喰い状のタフォニを形成。
宇津木石採石場跡 樫野埼灯台や潮岬灯台建設のための石材としても利用。
牡丹岩 流紋岩質火砕岩が風化し、牡丹の花のようなタフォニが発達。
一枚岩 幅500m、高さ100m にわたる一枚岩は、割れ目の少ない火砕岩が古座川の浸食を受け続け滑なめらかになった 。
ナメトコ岩 一枚岩トンネル〜雄岳。
花崗斑岩 巌の巨人 嶽ノ森の雌岳。別名「巌のジャイアント」
豆腐岩 嶽ノ森〜相瀬橋。

【嶽ノ森】
 古座川弧状岩脈に見られる双耳峰(雄岳376m、雌岳369m)の岩山で、古座川を挟んで一枚岩の対岸に位置する。登山口は、一枚岩トンネルの南側と相瀬橋の西側にあり、山頂でつながっている。
 一枚岩トンネル側から登ると、このルートの最大の見所「ナメトコ岩」がある。流紋岩質凝灰岩の壁が水流によってV字谷に浸食されており、百メートルほど続く滑らかな岩肌を流れに沿って登ることになる。ただ、凝灰岩の岩肌は登山靴のかかりがよく、人為的に彫られた足の踏み場が階段状に続いているのであまり滑ることはない。目の高さの岩肌にはイワヒバ(別名イワマツ)が群生している。
この順路で行くと、先に雄岳に到達するが、雄岳山頂から雌岳を眺めた時、山頂の少し下に大きな岩盤が覘いている。こちらの岩石は凝灰岩ではなく「花崗斑岩」で、巨人の横顔に見えることから「巌(いわお)のジャイアント」などと呼ばれている。また、雌岳山頂から雄岳のシルエットも望めるが、こちらはゴリラの横顔に見えるのは私だけだろうか。
 雌岳からは下りとなり、途中、花崗斑岩の柱状・板状節理がサイコロを積み重ねたように見える岩礁があり、「豆腐岩」と呼ばれている。一周2時間半の行程である。

【一枚岩】
 幅500m、高さ100m にわたる一枚岩は、割れ目の少ない火砕岩が古座川の浸食を受け続け、表面が滑なめらかになった「流紋質凝灰岩」である。この前の川の流れは緩やかで、私の場合、カヌーを持参して何度も一枚岩よりの流れを下ってみた。
 ここでも、イワヒバがところどこに群生しており、乾燥した岩肌では葉全体が内側に巻き込むように丸まっている。また雨などが降って水分が供給されると復活し、渇水期のこの植物の生き延び方だろう。一方、一枚岩の表面に, 白っぽく見えるところがあるが、これは地衣類のヘリトリゴケである。
 この大きな岩肌には、夕方ともなると大きな森のシルエットが映し出される。年に2回(4月19日と8月25日の各前後3日間)、「犬の影」となって現れる現象が見られ、この地域に伝わる伝説「守り犬の影」と言われている。

ナメトコ岩
 
牡丹岩   イワヒバ
 
虫喰岩   嶽ノ森(雄岳)
 
嶽ノ森(雌岳) ※○内が「巌の巨人」   豆腐岩
 
 
 
   

 
   

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